事業承継税制は、事業承継によって発生する相続税や贈与税といった税負担を軽減して、新しい経営者への事業承継を行いやすくする制度です。後継者がいないと悩む経営者にとってチャンスを広げる事業承継税制について解説します。
事業承継税制の概要
事業承継税制とは?
事業承継税制は2009年度の税制改正で創設された制度であり、事業承継に伴って生じる高額な贈与税や相続税といった税負担を軽減するものです。
そもそも事業承継は現在の経営者から次の経営者や企業へ事業を引き継ぐことになりますが、例えば経営が順調でしっかりとした収益を確保している会社の場合、会社としての資産価値も高額になり、それを他者へ譲渡することで贈与税や相続税が課税されるケースは少なくありません。
すると新しく経営者として名乗りを上げようとしていた人であっても、実際の税負担が重すぎるとして候補を辞退し、結果的に事業承継が困難になって倒産に追い込まれる恐れが増大します。
そのため事業承継税制では一定の要件を満たすことで、自社株式の譲渡に伴って発生する贈与税や相続税を納税猶予されたり、免税されたりといったことが可能になります。
税制改正による利用しやすさの向上
2018年度の税制改正では10年間の限定措置ながら事業承継税制の要件が緩和され、特例措置としてさらに利用しやすくなっていることも重要です。
また2019年度の税制改正では個人向けの事業承継税制についても新設されており、株式会社だけでなく個人事業主なども利用できるようになりました。
特例承継計画の提出期限がさらに延長?
事業承継税制を利用するには特例承継計画を提出する必要がありますが、2023年12月22日の閣議決定(令和6年度税制改正の大綱)によって特例承継計画の提出期限を延長するという方針も発表されています。
事業承継税制を活用するメリット
多額な税金の負担を軽減できる
事業承継税制を活用するメリットは、即ち税負担を軽減できるという点です。
そもそも事業承継の後継者を見つけやすい会社とは十分な業績や経営の安定性を維持できている会社ですが、そのような会社は企業としての資産価値が高く、株式を譲渡したり保有資産を引き継いだりする際に多額な相続税や贈与税が課せられる恐れがあります。
しかし、そうなると根本的に企業を引き受けることがマイナスへつながるため、次の経営者の負担が大きくなってしまいます。
その点、事業承継税制を活用できればそれらのネガティブな要件を回避することが可能です。ただし完全に納税免除となるには一定期間にわたって要件を満たさなければなりません。
後継者の選定がしやすくなる
事業承継に伴う贈与税や相続税が後継者を探す際の足かせとなり、企業として売上や将来性があるにもかかわらず、信頼できる相手に事業承継を提案しても断られてしまうといったケースが起こり得ます。
しかし事業承継税制によって後継者の税負担を軽減・免除し、リスクを抑えて次の経営者としてデビューできるとなれば、それまで断っていた人でも安心して後継者の候補に名乗りを上げられる可能性が高まるでしょう。
また複数の候補が見つかれば、経営者としてそれぞれの人格や能力といった適性を比較検討し、信頼できる相手に事業を託すことも可能になります。
利益圧縮などの方法を取る必要がなくなる
事業承継税制を活用できない場合、それでも税負担を軽減しようと思えば、あえて事業規模を縮小させたり利益圧縮を行ったりして、会社としての資産価値や株価を減少させるという準備が必要になります。
しかしそれは会社としての存在価値を自ら否定するような行為であり、そもそも会社を次代へ残すために事業承継を行いたい経営者にとって本末転倒になってしまう恐れもあることは無視できません。
事業承継税制を活用できれば、事業価値を自ら減少させることなく、しっかりと事業戦略を立てて成長を目指しながら事業承継を考えることができます。
事業承継税制を活用するデメリット・注意点
取消事由に該当した場合のリスクが大きい
事業承継税制を活用する際に注意すべきポイントとして、承継時点で要件を満たして納税免除措置を受けられたとしても、それが完全に免税されるまでは一定期間を要することが挙げられます。
これは事業承継税制によって贈与税や相続税を回避し、その後すぐに他者へ事業を売却するといったことを防ぐ措置ですが、言い換えれば免税されるまで常に要件維持を意識しなければならないということです。
さらに、期間の途中で取り消し事由に該当してしまった場合、本来の課税額が請求されるだけでなく利子税が加算された金額を支払わなければなりません。
手続きが煩雑で手間がかかる
そもそも事業承継税制について度々税制改正が行われている理由の1つとして、手続きが煩雑で実際にメリットを追求しようと思うと相応の準備や時間が必要になるという点があります。
そのため現在は株式会社だけでなく個人事業主なども事業承継税制を活用できることになっていますが、現実問題として初心者がいきなり申請しようとしても途中で分からなくなってしまうといった恐れがあります。また要件を満たせなければ課税されるため、失敗した時のデメリットが大きいことも問題です。
加えて、事業承継税制を利用した後は定期的に都道府県や税務署へ継続報告する必要があり、事業を引き継いだ後も油断できないことはデメリットです。
「後継者がいない」という理由で、黒字廃業を選ぶ中小企業経営者が、全廃業のうち、3割を超えています。
独自の技術や知見が、後継者不足によって失われることは、日本経済の衰退を加速させることに他なりません。
その解決に、コンテンツという形で貢献するために生まれたメディアです。