事業承継のあり方を知る
中小企業との資本提携・M&Aに特化した投資会社・マラトンキャピタルパートナーズ株式会社代表取締役であり、一般社団法人日本プロ経営者協会・代表理事の小野氏に事業承継のあり方を聞いてみました。
事業承継の
“成功”と“失敗”の定義とは
これは企業によって異なると思いますが、ここでは、オーナー経営者が経営していた時と比較し、後継者が経営を引き継いだ後に、業績が同等又は、改善・成長している状況、という事にしたいと思います。
事業“承継”という意味では維持できるだけでも十分に成功と言えるからです。
事業承継を成功させるには
成功、失敗を分けるのは最初の1か月の社員に対するスタンスだと明言します。
そこで現場に自らが下りていける人は成功できますが、降りずに上からトップダウンをしてしまう人は失敗します。
事業承継は「業績が赤字で大変で再生が必要で経営者が交代する」という状況ではないため、従業員は大幅な改革が必要であるという認識がないことがほとんどです。
経営が順調に進んでいると思っている中で、いきなり外からきた経営者が現状を否定し、改革を振りかざすと現場は反発し、最悪は大量離職につながります。
一部そういった事が起こるのは、ある程度仕方ない部分も有りますが、中小企業の場合は、4〜5人が抜けてしまっただけでも業績が大幅にダウンしてしまうリスクが大きくあります。
実際に新たに入った優秀そうに見える経営者が、そういった手法で優良な成長企業の業績を急落させて、破産に追い込んでしまった案件を数多く知っています。
改革の進め方は“心”をつかんでから
それでは改革はしない方が良いのかというとそんなことはありません。
中小企業は最善ではないから中小企業のままである場合が多く、今よりもより良い状況が作れる事に間違いはありません。
その改革の方法の問題なのです。
従業員は現状でも手一杯、会社は十分に黒字であるという状況であれば、“頭”と“心”で受け入れられないものについてくる事はありません。
それを外から来た会社を作った人でもない人が上から目線で指示し、強引に進めようとすると、仮に“頭”で理解できても、“心”では理解できないため、ついてこない。
最悪の場合は退職につながり、会社が存続の危機にさらされることも。
ですので、まずは“頭”で改革を始めるのではなく、従業員の“心”をつかむことが最も大事です。
そういったサーバントリーダーシップ的な手法が事業承継の後継者には必須の能力だと考えています。
中小企業後継者に必要な行動
ちなみに、大企業の場合にはサーバントリーダーシップ的なやり方を取らなくても、トップダウンでも上手くいくケースもあると思います。
それは後継者の周囲に居る優秀な幹部たちがサポートし、現場に落とすまでに幹部達が後継者の声を翻訳し、心もつながった上司を通じて現場に落としていけるからです。
ですが、中小企業の場合は従業員が数十名程度しかいなくて社長も常に顔が見えたり、全員の名前と顔が一致する様な状況にある事が多いので、後継者であるリーダーが直接従業員と“心”を交わす必要があると思っています。
具体的には数十名であれば全員とランチ位はして、人となりや家族構成等をある程度把握し、当然顔と名前を一致させる、そういった地道な事ができる人じゃないと難しいんじゃないかなと思いますし、実際そういう人はスムーズに事業を引継げていると思います。
改革・改善→信頼を得る、という順番ではなく、先ずは現場に降りて信頼を得る→改革・改善という順序を取れるか、ということにつきるでしょう。
事業承継の事例
事業承継は簡単に行えるものではありません。
時間をかけて準備をしっかり行わないと、事業承継がうまくいかず、例え黒字経営の企業でも廃業してしまう可能性が高まるので慎重に行いましょう。
こちらのページでは、事業承継の成功事例・失敗事例とその対策(原因)をいくつかご紹介します。
企業のオーナーとしてどのように事業承継を進めるべきか、ぜひ参考にしてみてください。
事業承継のリスクとは
事業承継には、「負債や個人保証も引き継ぐことになる」「後継者と従業員が対立する可能性がある」「相続では遺留分を求められるケースもある」などさまざまなリスクがあります。
事業承継を成功させるためには、こうしたリスクに備えて対策を行うことが大切です。
こちらのページでは、事業承継で特に知っておくべきリスクと、その対策についてまとめました。
事業承継が成功する条件と理由
事業承継は会社によって進め方が異なりますが、成功したケースにはいくつか共通点があります。
ポイントとなるのが、「早めに準備を始める」「関係者の理解を得る」「事業承継に詳しい専門家と二人三脚で進める」の3点です。
こちらのページでは、事業承継を成功させる秘訣についてまとめるとともに、日本プロ経営者協会の小野様に解説をしてもらっているので、ぜひ参考にしてください。
事業承継が失敗する条件と理由
残念ながら、事業継承に失敗し、廃業に追い込まれたり、業績悪化、退職者の増加など大きな損害を被っている企業が少なくありません。
失敗してしまう要因はさまざまですが、その大半は準備不足や売却するタイミングにあるようです。
ここでは、事業承継が失敗する原因についてご紹介。
事業承継とは何か
事業継承とは、経営者が後継者に会社の経営を引き継ぐことです。
経営者が築き上げた、事業に関わるすべての経営資源が後継者に継承されます。経営資源は大きく「人(経営)」「資産」「知的資産」の3つの要素に分けられます。
「人(経営)」の承継とポイント
人(経営)の承継とは、現経営者から後継者への経営権を承継することです。
簡単に言えば、代表取締役の交代です。
特に中小企業においては、社長の手腕が企業の業績を左右することが多いため、後継者の選定や育成は出来る限り早く始めた方が良いでしょう。
後継者の育成では、各種業務の経験を積みながら社内の業務プロセスを理解させる、経営者による直接指導・引継ぎを行う、従業員や取引先・金融機関と関係を構築するなどさまざまなことを行います。
準備期間としては、5年から10年を目安に考えましょう。
資産の承継とポイント
資産とは、自社株式や事業用資産(設備・不動産等・資金など)等、事業を行うために必要な資産のことです。
中でも大切なのが、株式です。
経営権を承継してどんなに事業を行っても、株式の承継がなければ、その地位を奪われる可能性があるからです。
このため、専門家に依頼して、法的手段で確実に承継をしておくことが大切です。
贈与や相続によって資産を承継する場合は、資産の状況によって多額の贈与税・相続税が発生する場合があるため、税の負担を考えた承継方法を検討しなければなりません。
知的資産の承継とポイント
知的資産とは、著作権や特許権などの知的財産権に、ブランドやノウハウ、企業の価値観の元になっている経営理念、顧客とのネットワーク、顧客情報などのことで、財務諸表に記載されない、無形の資産のことです。
事業承継で特に大切なのは、会社の経営理念や経営者の想いを承継することです。
どんな思いで会社を運営しているのか、といった経営に対する想い、価値観、信条を「見える化」し、後継者や従業員と共有することから始めましょう。
事業承継と事業継承の違い
「事業承継(じぎょうしょうけい)」と「事業継承(じぎょうけいしょう)」は、似ているようですが、意味や使われるシーンが異なります。
「事業承継」は前経営者から「地位や精神、身分、仕事、事業を受け継ぐ」という意味です。
一方で「事業継承」は、「義務や財産、権利を受け継ぐ」という意味があります。
どちらも「受け継ぐ」という点は同じですが、「承継」には精神的な意味合いが強く含まれ、「継承」には権利や財産、事業などの具体的なものを引き継ぐ、といった違いがあります。
使い方としては、「先代から経営権を引き継ぎ、経営を行う」といった場合は「継承」を使い、「先代から経営理念やビジョン、想いを受け継ぐ」といった場合には「承継」を使うのが望ましいですが、厳格に決められているわけではなく、どちらを使っても間違いではありません。
ただし、法律上や税制上では「事業承継」が用いられており、中小企業庁でも同様に使用しています。
事業承継を飛躍のチャンスにするために
事業承継は、単に企業を存続するだけでなく、飛躍するチャンスにもなり得ます。
日本政策金融公庫総合研究所の「中小企業の事業承継」(※)によると、中小企業では、経営者が高齢化するほど売上が減少する傾向にあるようです。
中小企業では、社長自身の能力や判断が業績に大きな影響を与えているため、経営者の能力が加齢とともに衰えることで、企業の活力が低下し、業績が悪化するのでしょう。
こうした状況を打開するための一つの手段が、経営者の若返りです。
事業承継をしっかりと行い、若い後継者が新たな視点で事業拡大や新たな顧客層の開拓、社内の情報化の促進といった経営革新に取り組むことで、企業の活力を取り戻すことが可能です。
黒字廃業とは
廃業の中には、会社の業績が黒字の状態で廃業を行う「黒字廃業」があります。これは、例えば後継者がいないなどの理由によって黒字であるにもかかわらず廃業を選択せざるを得ないなどのケースが該当します。
経営者が黒字廃業を選択する場合には、従業員を解雇する必要がある点やこれまで取引を続けてきた取引先に与える影響など、さまざまな注意点があります。そのため、黒字廃業を避けるためにはどのような方法があるのかをご紹介していきます。
第三者承継とは
親族や従業員の中で後継者が見つからない場合に廃業を選択する事業主は少なくありません。しかし、廃業するのは第三者承継を検討してみてからでも遅くはありません。第三者承継は、親族や従業員以外の第三者に事業を売却することです。後継者がいない事業も引き継ぐことができます。事業がより成長する可能性を秘めているのもメリットのひとつです。ただし、買い手の経営方針に依存することになります。第三者承継のメリットと注意点を確認しておきましょう。
第三者承継支援総合パッケージについて解説
「第三者承継支援総合パッケージ」とは、中小企業の事業承継をサポートするという目的で経済産業省によって策定された制度です。中小企業にとっては後継者不足が大きな課題となっていますが、後継者不足を解消し貴重な技術や地域の雇用が失われることを防ぐためにもこちらの制度の活用が期待されています。
こちらの記事では、第三者承継支援総合パッケージの概要や策定された背景、また制度活用によって期待されるメリットなどについて解説しています。
「後継者がいない」という理由で、黒字廃業を選ぶ中小企業経営者が、全廃業のうち、3割を超えています。
独自の技術や知見が、後継者不足によって失われることは、日本経済の衰退を加速させることに他なりません。
その解決に、コンテンツという形で貢献するために生まれたメディアです。