事業承継を成功させるポイントは
事業承継は会社によって進め方が異なりますが、成功したケースにはいくつか共通点があります。
ここでは3つのポイントをご紹介します。
経営理念や想いを承継する
事業承継を進める上で、忘れてはならないのが、現経営者の会社に対する「想い」を受け継ぐことです。
「想い」は、競合他社と自社を差別化し、競争優位に立つための大切な資産です。
現経営者が長年温めてきた「想い」があってこそ、従業員や取引先と良い関係を保ち、事業を続けることができたのです。
万が一「想い」を軽視して事業承継を進めてしまうと、経営方針にブレが生じて事業が衰退してしまったり、従業員や取引先からの信用を失ったりするリスクが高まります。
まず経営者は、経営理念や想いなどについて、後継者とよく話し合いましょう。
ミッションやビジョン、バリューなどを言語化していない場合は、事業承継のタイミングで明文化することが大切です。
早めに後継者を決める
事業承継は、一日二日でできるようなものではありません。
後継者を決めて育成し、社員や取引先と関係を構築するためには、5年から10年ほどかかると言われています。
このため、できるだけ早く取り組むことが大切です。
まず行いたいのが、後継者を決めること。
自分の子どもなど親族から選ぶのか、社員などから選ぶのか、あるいはM&Aを行うのかで必要な工程が異なります。
後継者が決まったら、育成を行いましょう。
社内外で実務経験を積ませたり、現経営者のサポートをさせてノウハウを伝えたりするだけでなく、企業理念や経営方針もしっかりと染み込ませなくてはなりません。
早いうちから後継者を決めておけば、時間に余裕をもって育成を行うことができるでしょう。
関係者に理解してもらう
事業承継は経営者と後継者だけの問題ではありません。
社員や取引先、経営者と後継者それぞれの家族など、関係者の理解が不可欠です。
どんなに前もって後継者を決めていても、関係者に計画を伝えていなければ動きようがないでしょう。
特に重要なのが、従業員や取引先への配慮です。
急に後継者を紹介されても納得できず、場合によっては反発や混乱が生じる可能性があります。
関係者の理解がなければ事業承継を成功させるのは難しい上、企業としての信頼も低下してしまうかもしれません。
まずは、「事業承継をどのように行うか」を事業承継計画にまとめましょう。
関係者と早めに計画を共有しておくことで、スムーズに実行することが可能です。
M&Aの場合は特に、役員・従業員や取引先に対して理解を得る必要があります。
事業承継に詳しい専門家と二人三脚で進める
事業承継は会社の規模や状況によって進め方が異なりますが、共通しているのは、決して簡単ではないこと。
専門家ですらチームを組んで進める工程を、経営者が自力で行うのはかなり難しいでしょう。
安易に進めることで、思いがけず高額な税金が課された事例や、許認可が取り消されてしまった事例もあるので、適切な専門家のサポートを受けるのがおすすめです。
相談先には中小企業庁が設置している事業引継ぎ相談窓口・事業引継ぎ支援センターをはじめ、商工会議所や金融機関、公認会計士・税理士、M&A仲介業者などさまざまありますので、ニーズに合わせて選んでみてください。
事業承継のプロに聞く!事業承継が成功する条件は?
ここからは事業承継を成功させる秘訣について、日本プロ経営者協会の小野様に解説をしていただきます。
成功パターンと失敗パターンとその理由
まず前提として、ここでは、「事業承継成功」=「後継者が経営を引き継いだ後に、業績が前経営者と同等または改善・成長している状況」と定義します。
事業“承継”の成功、という意味では、維持できるだけでも十分に成功と言えるからです。
これまで多くの事例を見てきた中で言えるのが、最初の一ヶ月の会社(社員)へのスタンスで、成功・失敗が分かれるということです。
この一ヶ月で、後継者自らが現場に下りていける人は成功できるし、降りずに上からトップダウンをしてしまう人は失敗します。
なぜかというと、事業承継をする際の会社の状況によっては、「会社に大幅な改革が必要だ」という認識を従業員が持っていない場合があるからです。
特に、経営が順調ならなおさらですよね。
そこにいきなり外から来た経営者がよく知りもせず現状を否定したり、権力を振りかざして改革を進めたりすれば、当然現場は反発し、最悪の場合、大量離職してしまいます。
どんな状況でも、ある程度反発が起こるのは仕方ないにしても、例えば10人しかいない中小企業で4~5人も離職してしまったら、業績の大幅ダウンは避けられません。
実際に、非常に優秀そうに見える経営者が、そういった手法で、優良な成長企業の業績を急落させ破産に追い込んでしまった案件を数多く知っています。
改革のポイントは従業員の“心”を掴むこと
「それなら改革しない方が良いじゃないか」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
中小企業は「最善」ではないから中小企業のままである場合が多く、必ず、今よりステップアップできる可能性があります。
ただ、その改革の方法が問題なのです。
従業員は日々の仕事で手一杯、さらに会社が十分に黒字なら、“頭”と“心”で受け入れられないものにわざわざ従うことはありません。
さらに、それを外部から来た人が上から目線で強引に進めようとすれば、仮に“頭”で理解できていたとしても、“心”では理解できない、ついていきたくない、となり、退職につながってしまうでしょう。
改革は、まず“頭”ではなく、従業員の“心”をつかむことを優先してください。
私は、そういった、ある意味サーバントリーダーシップ的な手法が事業承継の後継者には必須だと考えています。
まずは現場に降りて信頼を得よう
ちなみに大企業なら、トップダウンでも上手くいく場合があると思います。
それは、優秀な幹部たちがサポートし、リーダーの声や施策を段階的に現場に落としていけるからです。
しかし、中小企業の場合は社長と従業員の距離が近い。
社長の顔が常に見えるし、社長自身、社員全員と密接に関わることも多いでしょう。
だからこそ、後継者であるリーダーが直接従業員と“心”を交わす必要があるんです。
具体的には、数十名程度であれば、全員とランチ位はして、人となりや家族構成等をある程度把握し、顔と名前を一致させるような事ができる後継者でないと難しいと思いますし、実際そういうケースではスムーズに事業を引継げていると思います。
改革・改善を行いながら信頼を勝ち取る、という順番ではなく、まずは現場に降りて信頼を得てから改革・改善を行う、という順序を取れるかどうかが、成功への分かれ道である、と言えると思います。
「後継者がいない」という理由で、黒字廃業を選ぶ中小企業経営者が、全廃業のうち、3割を超えています。
独自の技術や知見が、後継者不足によって失われることは、日本経済の衰退を加速させることに他なりません。
その解決に、コンテンツという形で貢献するために生まれたメディアです。