事業承継の成功と失敗の定義
事業継承とは、経営者が後継者に会社の経営権を引き継ぐことを意味します。
特に中小企業においては、社長の手腕が企業の業績を左右することが多く、「誰が社長になるか」が非常に重要な課題となっています。
事業承継には、大きなリスクがあります。
事業承継がうまくいかないと、例え黒字経営の企業でも廃業してしまう可能性が少なくありません。
では、「事業承継の成功」とはどのような状態を言うのでしょうか?
ただ単に、後継者を決めて事業を引き継ぐだけ、あるいは企業の経営を維持できる、というだけで成功と言えるのでしょうか。
さまざまな考え方はありますが、当サイトでは、「後継者が経営を引き継いだ後に、業績が前経営者と同等または改善・成長している状況」と定義します。
事業承継の成功事例
以上を踏まえて、ここからは実際の成功例を見ていきましょう。
どのように事業承継を行うべきか、ぜひ参考にしてみてください。
早めの事業承継での成功事例
地方で製造業を営むA社。
創業オーナーには子供がいなかったため、誰を後継者にするか、常に悩んでいました。
そこでオーナーは、従業員の中から候補を選び、5年かけて後継者教育を実施。
後継者候補は、教育を受ける中で、オーナーから経営のノウハウを学ぶと共に、従業員や取引先との関係性をじっくりと構築することができたようです。
これによって従業員や取引先から理解と信頼を得ることができ、スムーズな事業承継が行えました。
経営者の多くは、自身の引退を考え始めてからようやく後継者探しを行います。
しかし、自身の引退が近くなってから考え始めるようでは、すでに遅い場合もあります。
この事例のように、現役のときから、時間をかけて後継者を育てていくことが大切です。
子・親族に事業承継での成功事例
FA機器メーカーB社は、ITエンジニアとして働いていた経営者の子どもを後継者にしました。
まずは、同社に入社し、営業部で会社の概要を理解した後、システムの導入や社内システムの刷新に参加。
その後、権限の委譲を少しずつ進め、9年後に社長に就任しました。
事業承継後は、働き方改革、作業効率の向上、業務改革をすすめ、売上が事業承継前の2倍、経営利益は4倍になったそうです。
円滑に事業承継を行うためには、早いうちから経営者が後継者と二人三脚で経営の「見える化」と会社の「磨き上げ」を行うことが大切です。
「磨き上げ」とは、会社自体の価値を向上させることです。
自社の強みを見いだし、どう活かすか、そのための組織体制を構築するアクションを言います。
「磨き上げ」には時間が必要なため、この事例のように早めに取り組んだ方が良いでしょう。
従業員への事業承継での成功事例
とあるプラスチック製品メーカーC社は、親族内にちょうどよい後継者候補がいなかったため、従業員アンケートを実施し、従業員の中から後継者を選定することにしました。
従業員が自ら選んだ人が社長になったことで会社としての一体感が高まったとともに、新社長自身も、従業員から選ばれたという自信と信頼を感じられるなど大きなメリットがあったようです。
現在は新体制の下、新市場での販路開拓に取り組み、事業拡大を目指しています。
従業員へ承継を行う場合には、能力のある人材を見極めて選べること、経営方針等を理解している従業員に承継できること、などのメリットがある一方、後継者の意識・認識が弱い、経営者家族・親族などの理解を得ることが難しい、後継者が株式や事業用資産を買い取るための資金調達が厳しい、などのデメリットがあります。
この事例では、金融機関である「事業承継ファンド」が間に入り、後継者の買取資金の負担軽減などサポートを行ったそうです。
M&Aによる第三者への事業承継での成功事例
部品メーカーのD社では、社長の子どもに会社を継ぐ意思がなく、後継者選びに悩んでいました。
社長の2人の子どもはそれぞれ自分の道を歩んでおり、経営には関心がなかったようです。
社長は株式上場を検討しましたが、上場の準備中に社長が病気にかかってしまいます。
そこで今度はM&Aを検討。大手企業のグループ企業になったことで、経営状況も無事改善しました。
「M&Aは大手企業が行うもの」というイメージがあるかもしれませんが、最近は小規模企業や個人事業者によるM&Aのケースが増えています。
ただし、M&Aには半年から1年ほどの時間がかかるため、早期に判断して動き出すことが大切です。
事業承継での失敗事例
一方で、事業承継がうまくいかなかったケースも数多くあります。
ここではよくある失敗例を3つ紹介するので、参考にしてください。
準備不足による失敗事例
E社では、経営者自身に体力があり、まだまだ若かったため、引退することを考えていませんでした。
ゆくゆくは息子に会社を継がせようと決めていたものの、まだ時間があると考え、行動を起こしていなかったのです。
ところがある日、経営者が倒れ、急きょ息子が経営を引き継ぐことになります。
しかし、何の準備も引き継ぎもできていなかったため、経営は悪化の一途を辿るばかり。
多くの従業員も不安を抱え離職してしまいました。
この事例の失敗要因は、後継者に決めていたにもかかわらず、何も行動を行っていなかった点にあります。
早くから引継ぎや経営者としての教育、従業員との情報共有を行っていれば、結果は全く違っていたでしょう。
相続トラブルが生じた事例
社長が一代で築き上げたF社。
子どもは長女・長男・次男の3人でしたが、社長は後継者に長男を選びました。
事業承継を承諾した長男は、務めていた大手企業を辞め、F社の役員に就任し後継者としての教育を受けます。
しかし問題は、社長の死後に起こりました。
「事業用の土地建物と自社株式を長男に相続する」と書かれた遺言書に長女・次男が反発。
本来、「小規模宅地等の特例」という優遇税制を活用すれば、事業承継に問題は生じないはずでしたが、相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらなかったため、税制の優遇が受けられず、多額の相続税が発生してしまったのです。
社内の問題もあって長男はうつ病を発症し、事業をたたむ決断をしました。
どんなに仲の良い親族でも、相続で仲違いするケースはあるものです。
この事例では、早い内から事業承継を行っていたにもかかわらず、後継者以外の家族と遺産についてのコミュニケーションを取っていなかったことが問題になりました。
相続は非常にデリケートな問題なので、事前に家族で話し合いを行っておくこと、専門家にも相談しておくことがおすすめです。
自分で売却先を探して失敗した事例
M&Aによる事業承継を検討していたG社の社長。
M&A仲介会社に相談することも考えましたが、手数料が高いと感じ、自身で売却先を探し始めました。
知り合いの経営者に買手候補を紹介してもらい、M&Aによる事業譲渡の実施を決定。
意気投合した2人は、ここでも手数料を惜しみ、各自でM&Aに関する情報を調べ、テンプレートから契約書類を作成しました。
M&Aは無事成立しましたが、その後、買手が不採算を理由に従業員を解雇。従業員の雇用が続くと思っていた社長は、引き継ぎ条件を明確にしなかったことを後悔しているそうです。
事前に引き継ぎ条件を明確にしなかったために、大切な従業員を失ってしまった事例です。
こうした失敗を未然に防ぎ、事業承継をするためには専門家に相談することが大切です。
リスクを抑え、安全に事業承継を進められるようサポートしてくれるでしょう。
成功と失敗をわけたのは3つの要素
成功と失敗をわけたのは、十分な準備時間と、事前に周囲の理解を得るための行動をしていたこと、そして必要な場合は専門家の手を借りたことです。
この3つのうち、どれか1つでも欠けると、スムーズな事業承継が困難になります。したがって、自分の引退が見えてから焦っているようでは遅いといえます。その時点からスタートとなると、専門家の力を借りることは必須と考えても良いと思います。
当メディアで取材した元経営者の方も「いつの間にか私も世間で言われる定年の歳を迎え、頭や体の老化現象に気付き始めた」と話していました。今後継者が決まっていないという経営者の方に参考になるはずですので、ぜひこちらで経緯を読んでみてはいかがでしょうか。
「後継者がいない」という理由で、黒字廃業を選ぶ中小企業経営者が、全廃業のうち、3割を超えています。
独自の技術や知見が、後継者不足によって失われることは、日本経済の衰退を加速させることに他なりません。
その解決に、コンテンツという形で貢献するために生まれたメディアです。