当サイトでは後継者問題を抱える中小企業に役立つ情報を提供しています。
このページでは後継者がいない中で会社を存続させる方法として、近年注目を集めている事業承継ファンドについて調査し、その概要をまとめました。
事業承継ファンドとは
事業承継ファンドとは投資家から資金を集めて企業などに投資を行い、そこで得た利益を投資家に分配する投資ファンドの一つです。
後継者問題を抱える企業へ投資し、経営再建や企業価値を高めることを目的としています。
もともとは独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)を筆頭に設立されたファンドでしたが、現在では事業承継サポート需要が広く注目されるようになり、民間企業による事業承継ファンドも増えてきました。
一般的な投資ファンドはスタートアップやベンチャー企業など成長性を期待してファンドが組まれますが、事業承継ファンドは利益が分配できる投資ファンドとして成立させるために企業に対してさまざまな支援を行います。
その内容として、例えば後継者不在の状況では育成や後継者探しをサポートしたり、経営状態が思わしくない場合にはコンサルタントを派遣して経営安定化・健全化の道筋をつけるなど幅広い支援を実施します。
事業承継ファンドが注目されている理由とは
近年、事業承継ファンドが注目されるようになったのは後継者問題に悩む企業が増えたことが理由として挙げられます。
帝国データバンク2021年11月発表資料によると後継者不在率はやや改善傾向があるものの、まだ61.5%と高い数字となっています。
また中小企業庁の資料では廃業予定の中小企業の中で4割超が今後10年間の事業の維持・成長は可能という調査結果を示しています。
事業は継続できるのに後継者がいないという理由で廃業を余儀なくされる状況であることがわかります。
数多くの中小企業が廃業を選んでしまうと、会社が持つ技術やノウハウが失われるだけではなく、日本の経済や雇用に少なからず影響を与えます。
国でも事業承継を支援するさまざまな取組みを行っていますが、事業承継ファンドは解決方法として大変有効です。
事業承継ファンドは得た利益を投資家に分配する仕組みなので、ファンドを活用することにより廃業せずに事業を継続し、後継者問題を解決できれば一石二鳥です。
事業承継ファンドが注目されるのはこうした背景があるからです。
事業承継ファンドの
メリット・デメリット
メリット
- 経営者の負担軽減
- 企業価値が高まる
- 外部から優秀な人材が集められる
- 企業文化が受け継がれる
中小企業の経営者はさまざまな仕事を兼務していることも多く、事業承継に関わる問題解決に時間を取られると負担が大きくなります。
事業承継ファンドを活用すると後継者選びや経営に関するアドバイスが受けられ負担が軽減します。
また事業承継ファンドの目的は経営権を奪うことではなく、売却益を投資家に再分配することですので、そのために外部から経営陣も含め優秀な人材を集め、経営の安定化や事業の成長を促すことで企業価値が高まります。
企業価値の向上以外では深く介入することがないため、独立性が保たれ会社の理念や文化も受け継がれます。
経営者の意向を汲んだ事業承継が進められるため、従業員同士のトラブルや流出が起きにくいのもメリットの一つです。
デメリット
- ファンド選びが難しい
- 支援を受けられない可能性がある
- M&A実施後に経営変化
事業承継ファンドはさまざまな種類があり、ファンド選びに失敗するとメリットが生かせないことがあります。
ファンドの目的はあくまで利益を出すことですから、経営者の想いと合致しないケースがあるということです。
例えば事業承継ファンドに経営支援を期待していても、業績回復が見込めないと判断されれば、支援が受けられない可能性もあります。
またファンドによって経験やノウハウが異なり、自社に適したファンドが見つからないこともあります。
そしてファンドのおかげで企業価値が上がると、利益を出すためにやがてM&Aが実施されます。その際には経営者ごと変わってしまう可能性もあり、M&Aで考えられるリスクを負うことにもなります。
事業承継ファンドとM&Aの違い
事業承継ファンドとM&Aは親族や社内の従業員・役員とは異なる第三者に引き継ぐという点では共通します。
その意味で広義にはどちらもM&Aと言えるのですが、それぞれ対象企業へのアプローチ・姿勢が異なります。
事業者間のみで行われるM&Aは、対象企業が持つ技術力やノウハウ、人材や流通ネットワークなどを自社内に取り込むことで経営基盤を強固なものにする目的で行われ、企業買収といった意味合いを持つこともあります。
一方、事業承継ファンドはファンドとして利益を獲得し、それを投資家に分配することを目的としており、経営支援を行ったり資金や外部から優秀な人材を投入することで対象企業はそのままに、経営課題の解決や企業価値を向上させることに重点が置かれます。
事業承継ファンドの種類
中小機構のファンド
中小機構ファンドは独立行政法人 中小企業基盤整備機構が公的機関として運営する投資ファンドです。
後継者候補の育成などの事業承継や販路拡大といった中小企業が抱える課題解決のための支援を実施。
利益追求型ではないため無理な企業成長を図ることはありません。
プライベートエクイティファンド
機関投資家や個人投資家から集めた資金で高成長が見込まれる企業の未公開株を取得。
経営再建や事業承継支援を行い企業価値を高め、上場時に売却益を獲得する投資ファンドです。
日本プライベートエクイティが事業承継・事業再編ファンドとして知られています。
サーチファンド
サーチファンドは、「資金力はないが経営に意欲がある個人」を対象とした投資モデルです。
「経営者を志す人材が、自ら経営したい企業を発掘し、投資家の支援を得て、対象企業の経営権を取得し、同社の企業価値向上を実践する」仕組み。
日本では最近一部で聞かれるようになったばかりで、それほど浸透はしていませんが、欧米では、MBA取得後のキャリアとして注目されています。
中小企業が事業承継ファンドを
活用したい場面
後継者がいない
事業承継ファンドを活用したい場面として真っ先に挙げられるのが、後継者がいないケースです。
事業承継ファンドのネットワーク力で、自社に適した後継者に任せることが可能です。
後継者の育成・資金不足
後継者がいても候補となる人に経営ノウハウが不足していたり、資金力がないケースでも事業承継ファンド活用の意味があります。
後継者候補を育成したり、株式を事業承継ファンド側が買い取って後継者候補を経営者として指名できるからです。
現経営陣に任せたいとき
事業承継ファンドの目的は対象企業の経営権の獲得ではなく、企業価値を高めて投資家に利益を分配することです。
したがって現経営陣にそのまま経営を引き継がせたいケースでも、それが投資ファンドが利益を得るために最も良いと判断されれば可能になります。
事業継承ファンドを活用する流れ
事業承継ファンドを活用する場合の一般的な流れを紹介します。下記の流れで事業継承が行われますので、参考にしてみてください。
はじめに、オーナー経営者はM&A仲介業者などを通じてファンドに問い合わせを行います。この場合、仲介業者を介さずに直接ファンドに問い合わせを行うケースもあります。その後、ファンドとオーナー経営者の間で秘密保持契約を締結。財務に関連する書類などの開示を行い、基本合意書の締結を行います。
基本合意書の締結を行った後は双方の条件のすり合わせが行われ、弁護士などの専門家によって企業の経営状況や財務状況の調査を意味する「デューデリジェンス」が実施されます。その結果を最終条件に加味した上で、再びすり合わせを行います。
条件に問題がない場合には最終的な譲渡契約の締結の段階に進み、ファンド側に保有株式の売却を行います。また、事業経営ファンドが経営支援を行い、企業価値を高めていきます。
一般的には上記のような流れとなりますが、具体的な手順はそれぞれの事業承継ファンドにより異なります。どのような手順で進められていくのか詳細を知りたい場合には、あらかじめ確認しておくと良いでしょう。
事業継承ファンドを活用した事例
事業承継・事業基盤の強化を実現
首都圏・関西圏においてマンション管理に関わる管理員やコンシェルジュといった人的サービスの代行業務を展開している株式会社コミュニティセンターは1993年に東京都練馬区で設立された企業です。
同社はマンション管理サービスに対する需要の急速な増加・多様化・高度化に対応するために事業承継ファンドを活用。ファンドの活用によって「事業承継に関する問題」「事業基盤の強化」という2つの課題の解決につなげられています。
社員を中心とした経営展開を目指す
1977年設立の株式会社ニックは、病院や学校を中心とした建物の清掃業務や警備保安業務、設備管理業務を手がけている企業です。同社も属しているビルメンテナンス業界は中小企業や小規模事業者が多くを占めていますが、近年では後継者問題や人材確保の問題が深刻している状況となっています。
そこで同社では事業承継ファンドの活用によって事業承継の円滑な遂行とともに事業基盤の強化・拡大といった課題を解決するとともに、組織経営へ移行して社員を中心とした経営展開を目指しています。
次のステージを意識した事業展開
k's International株式会社は、東京都心で6店舗の美容室を展開する企業です。同社ではプロ意識の高いスタイリストを育成し、要求水準が高い都心において品質の高いサービスを提供しています。
同社では、美容業界が抱える人事労務面の課題や経営課題などを乗り越えスタイリストやスタッフの将来を描くためにも次のステージを意識した事業展開や組織経営への移行が必要であると考え、事業承継ファンドを活用。企業文化や現場のモチベーションを維持しながら、新しい時代に対応した美容室の在り方を目指しています。
事業継承ファンドの選び方
これまでにどのような実績があるのか
過去にどのような実績があるのかといった点を確認する、という点は事業承継ファンドを選ぶ際に重要なポイントです。また、単に実績数だけではなく内容までチェックしておくと良いでしょう。自社と似たケースを支援している実績がある場合には、選定時の参考にできます。
どのような支援を行っているか
対象となる事業支援ファンドがどのような支援を行っているのかを確認しておくのもポイントのひとつといえます。問い合わせ時に自社の基本的な情報に加えて相談の内容などを伝えた上で、受けられるサポート内容について具体的に確認することがおすすめです。
長期的な視点を持っているか
事業の存続や成長について、長期的な視点で見ているかどうかといった点も確認しておきましょう。短期的な視点で利益を求めるようであれば、自社の存続や十分な成長が期待できない可能性もあります。もし、利益が出るまでに時間がかかった場合でもサポートを行ってもらえるのか、という点は重要なポイントです。この部分は過去の実績などからチェックできます。
担当者との相性は良いかどうか
相談をした際には、担当者との相性が良いかという点もしっかりと確認しておくことがおすすめです。例えば相談中に違和感があったといった場合には、そのまま話を進めずにまず担当者はこのままでいいのか、事業承継ファンドの変更は必要ないかどうかを検討した方が良い場合もあります。相性が良いと感じられる担当者を探してみてください。
ファンドを活用するなら、
強力な経営者ネットワーク
を持つ会社を選ぶこと
ファンドを使った事業承継を検討しているなら、後継者候補となる経営経験者に強力なネットワークを持つ会社を選ぶことが、より良い事業承継への近道。
たとえば、当メディアの取材に協力してくれている一般社団法人日本プロ経営者協会は、母体がマラトンキャピタルパートナーズ株式会社という投資会社です。
中小企業との資本提携・M&Aに特化し、オーナー側の「自社に最善の後継者を見つけたい」という思いに応えるため、日本プロ経営者協会を立ち上げ、2023年3月現在さまざまな経歴を持ったプロ経営者が1,500名所属しています。
後継者の経験・資質・学歴などの条件をオーナーが挙げ、オーナーの条件に合う、かつその会社を経営したいプロフェッショナルが手を挙げる。
後継者が銀行保証に入る事は無く、ストックオプションなどの魅力的なインセンティブ設計を行うことで、後継者にもメリットがあるため、中小企業では招聘困難なスキルを持った後継者の招聘が可能になるという、オーナーにも後継者にもメリットが大きいプラットフォームです。
「後継者がいない」という理由で、黒字廃業を選ぶ中小企業経営者が、全廃業のうち、3割を超えています。
独自の技術や知見が、後継者不足によって失われることは、日本経済の衰退を加速させることに他なりません。
その解決に、コンテンツという形で貢献するために生まれたメディアです。